朝、布団から出られないわが子を見つめながら
何度声をかけても、布団から出てこないわが子。
その丸まった背中を見て、心が締めつけられるような思いをしていませんか。
「どうしてうちの子が」
「私の育て方が、どこか間違っていたのかしら」
毎朝そうやってご自分を責めてしまう。その気持ちは、親だからこそ感情です。
学校に行けない。たったそれだけのことで、親は焦り、出口のないトンネルに迷い込んだような心地になります。私自身、4人の子育ての中で「不登校」や「いじめ」を経験しました。あの不安と苦しさは、今でもはっきりと覚えています。
けれど悩み抜いた先に見えてきたもの、とてもシンプルな、そして一番大切な答えに行き着きました。
「不登校でも大丈夫。生きていてくれたら、それだけでいい」
不登校の小中学生は約35万人。あなたひとりではありません
文部科学省の調査では、令和6年度に不登校とされた小・中学生は約35万4千人。決して珍しいことでも、特別なことでもありません。
そして文部科学省は令和元年の通知で、不登校はさまざまな要因が重なった結果であり、その行為を「問題行動」と判断してはならない、と明言しています。支援の目標も「学校に登校する」という結果のみに置くのではなく、その子が社会的に自立していくことだ、と。
国もすでに「学校に戻すことがゴールではない」と言っているのです。どうか、まずご自分を責めないで下さい。
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今、お子さんは「心の充電」が切れています
たとえ話ひとつめ。スマートフォンです。
充電が0%になったスマホは、いくら強く押しても画面はつきません。必要なのは、叱ることでも励ますことでもなく、静かに充電器につないで待つことだけです。
今のお子さんも、学校で気を張り、周りに合わせ、頑張り続けた結果、心のバッテリーが空になって休んでいます。そこへ無理に背中を押すことは、電源の入らないスマホを叩き続けるのと同じかもしれません。
勉強の遅れは後からいくらでも取り戻せます。けれど、心と身体の安全だけは取り戻しがきかないものです。だからこそ今は「充電の時間」と腹をくくっていただきたいのです。
心理学では①──家庭を「安全基地」に
イギリスの精神科医ジョン・ボウルビィが提唱した愛着理論の中に、「安全基地(secure base)」という考え方があります。心理学者メアリー・エインスワースが名づけたこの言葉は、子どもの育ちをこう説明します。
子どもは「ここに戻れば必ず受け入れてもらえる」という場所があるからこそ、外の世界へ出ていける。登山のベースキャンプと同じで、基地が揺らいでいるとき、人は頂上を目指しません。
つまり順番が逆なのです。「外に出られるようになったら安心できる」のではなく、「安心できるからこそ、外に出られるようになる」。今、家庭にできる一番の仕事は、押し出すことではなく、基地を整えることです。
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心理学では②──「無条件の肯定的関心」
アメリカの心理学者カール・ロジャーズは、人が変化し回復していくために欠かせないものとして「無条件の肯定的関心(unconditional positive regard)」を挙げました。「〜できたら認める」ではなく、条件をつけずにその人まるごとに関心を向ける態度のことです。
思い出してみてください。お子さんを初めて抱きしめた日、「いい学校に行ってほしい」とは考えなかったはずです。ただ「生まれてきてくれてありがとう」「生きていてくれるだけで愛おしい」と感じたのではないでしょうか。
あのときの気持ちを、そのまま言葉にして届けてあげてください。
「学校に行かなくても、あなたの価値は1ミリも減らないよ」
「どんなあなたでも大好きだよ」
でも、その一言が言えない朝があります
ここまで読んで、「そうだ、優しく受け止めよう」と思ってくださったかもしれません。
けれど翌朝、布団の前に立つと、口から出るのは「なんで行けないの」「ちゃんとしなさい」。そして言った瞬間に後悔して、また自分を責める。
多くのお母さんが、この繰り返しの中にいます。意志が弱いからでも、愛情が足りないからでもありません。言えないのには、はっきりした理由があります。
理由① 反応しているのは「今日」ではない
私たちは「今日一日休むこと」に反対しているわけではありません。「このまま一生、家から出られなくなったら」という想像のほうに反応しています。
認知行動療法では、これを破局的な思考と呼びます。今日の一歩が、最悪の結末まで一直線につながって見えてしまう状態です。
けれど実際には、今日休むことと、一生の話は別のことです。胸がざわついたときに「私は今、今日ではなく未来を見ている」と気づくだけで、少し距離がとれます。
理由② 「休ませる」ことが、自分の物差しを裏切る
私たちの中には「学校は行くもの」「つらくても頑張るもの」という、長い時間をかけて固まった物差しがあります。その物差しの多くは、自分自身が子どもの頃に「休みたい」と言えなかった経験からできています。
自分が許されなかったことを、わが子にだけ許すのは、とても難しい。
交流分析では、これを親の自我状態と説明します。自分の口から出ているようで、実は自分を育てた人の声が出ていることがある。「今のは、私の言葉だろうか」と問い直すだけで、言葉は選び直せます。
理由③ 「なんで行けないの?」は、質問ではない
あの問いかけは、答えを求めている言葉ではありません。親の中でふくらみすぎた不安が、質問の形をとって外に出ているだけです。
だからお子さんは答えられません。そして、答えられない自分をまた責めることになります。
不安は、消さなくていい
多くのお母さんが「不安がなくなったら、優しくしてあげられるのに」と考えます。けれど不安は消えません。わが子のことなのですから、当たり前です。
近年の心理療法では、感情そのものを変えようとするのをやめて、気持ちはそのままに、行動だけを選ぶという考え方をします。
つまり、不安なまま「今日は休もうか」と言っていいのです。心が穏やかになるのを待つ必要はありません。順番は行動が先で、気持ちは後からついてきます。
明日の朝、試していただきたい4つのこと
- 声をかける前に、心の中で「私は今、不安だ」と言う。 感情に名前をつけるだけで、勢いは少し落ちます。
- 言う言葉を、前の晩に決めておく。 その場で考えると、不安のほうが速い。紙に書いて貼っておくくらいでちょうどよいのです。
- 言ったら、その場を離れる。 説得しない、理由も聞かない。カーテンを開けて、部屋を出るだけ。
- 自分に「今日はこれで100点」と言う。
うまく言えない朝があっても構いません。7回に1回でも言えたら、家の空気は変わりはじめます。
心理学では③──家族は「ひとつのモビール」
たとえ話ふたつめ。天井から吊るすモビールです。
モビールは、どれかひとつが揺れると全体がゆっくり揺れて、やがて新しい釣り合いの場所に落ち着きます。家族療法では、家族をこのモビールのようなひとつのシステムとして捉えます。
ですから、今つらそうにしているのがお子さんであっても、それは「その子だけの問題」ではなく、家族全体で受けとめていくテーマだと考えます。これは「親のせいだ」という話ではありません。むしろ逆で、お子さんを変えようとしなくても、親御さんの側が少し力を抜き、関わり方を変えるだけで、家族全体の釣り合いが動き出すのです。
変えられるのは、いつも自分の側から。それで十分に足ります。

「生きていてくれるだけで100点満点」
親が肩の力を抜いて笑いかけられるようになると、不思議なもので、子どもの心にも少しずつエネルギーが戻っていきます。安心できる居場所さえあれば、子どもは必ず自分のタイミングで立ち上がります。その力は、私たちが思っているよりずっと大きいものです。
不登校は失敗ではありません。親子で「本当に大切なものは何か」を見つめ直し、絆を深めるための、大切な寄り道です。
お母さん、もうご自分を責めないでください。
お子さんが今日、生きて、目の前で息をしてくれている。
それだけで、子育ても、あなた自身も、すでに大成功なのです。
ひとりで抱えないでください
不安が強いとき、眠れないとき、お子さんの様子がいつもと違うと感じたときは、どうか早めに誰かにつないでください。夜でも、休日でも、話を聞いてくれる場所があります。
- 24時間子供SOSダイヤル(文部科学省) 0120-0-78310 24時間受付
- こころの健康相談統一ダイヤル(厚生労働省) 0570-064-556 ※受付時間は都道府県により異なります
- チャイルドライン(18歳までの子ども専用) 0120-99-7777 毎日16時〜21時
- こどもの人権110番(法務省) 0120-007-110 平日8時30分〜17時15分
- 児童相談所虐待対応ダイヤル 189
家族カウンセリング研究所では、学校・PTA・自治体・教育機関の皆さまに向けて、不登校やいじめ、思春期の子どもとの関わり方についての講演を承っております。「安全基地」としての家庭づくりを、保護者の方や先生方と一緒に考える時間をつくりませんか。

