
朝、目覚まし時計の音が鳴り響く。 キッチンで朝食の準備をしながら、子ども部屋のドアの向こうの気配に耳を澄ませる。 「今日は起きてくるだろうか」「また休むと言われたら、どう答えたらいいのだろう」――。
毎朝、見えない重圧に押しつぶされそうになりながら、玄関で立ち尽くすお子さんの背中を見つめているお母さん。そして、ご家族の皆様。本当によく頑張っていらっしゃいますね。
私はスクールカウンセラーとして、そして家族カウンセリング研究所の代表として、母と子の関係性や、ご家族全体の悩みに数え切れないほど向き合ってきました。
子どもが学校に行けなくなると、親は必死に「理由」を探します。 友人関係のトラブルがあったのか、勉強についていけないのか、先生と合わないのか。もちろん、きっかけとなる出来事はあるでしょう。
しかし、家族心理学の視点から見ると、実は少し違った景色が見えてきます。 不登校は、単なる怠けでも、親の育て方の失敗でもありません。 それは、**「今のままの頑張り方では、もう限界だよ」「家族みんなで、新しい生き方を見つけるタイミングが来たよ」という、子どもからの痛切なメッセージ(サイン)**なのです。
家族というものは、一つのモビール(吊るし飾り)のようなものです。 どこか一箇所に無理な力がかかったり、風向きが変わったりしたとき、一番感受性の豊かな子どもが、自らの動きを止めることで「家族全体のバランス」をとろうとすることがあります。 つまり、お子さんは家族の誰よりも早くSOSを察知し、身を挺して「変化の必要性」を教えてくれているのです。
私自身、以前は「なぜ行けないのか」という原因ばかりを探してしまう支援者の一人でした。しかし、多くのお母さんや子どもたちに教えられてきました。解決のゴールを「明日、学校へ行くこと」だけに設定してしまうと、お子さんは「学校に行けない自分はダメな存在だ」とさらに心を閉ざしてしまうということを。
これまでお会いしてきたご家族が、暗いトンネルから抜け出す「最初の変化」は、決まって同じ瞬間でした。 それは、親御さん自身が「学校に行っても、行かなくても、あなたは大切な存在だよ」と、心からの安心感を家庭の中に作り直せたときです。

【柿澤カウンセラーの心理学ワンポイント:心の充電器「安全基地」】
心理学(愛着理論)には**「安全基地(セキュア・ベース)」**という言葉があります。これは、子どもにとって「無条件で自分を受け入れてくれる存在や場所」のことです。 子どもは、外の世界(学校や社会)で傷ついたり疲れたりすると、この安全基地に戻ってきて心を充電します。そして、エネルギーが満ちると、再び外の世界へと自ら探索に出かけていくのです。 不登校の時期は、まさにこの「充電」が必要なタイミング。家庭が「ありのままの自分でいていい場所(安全基地)」になることが、子どもが再び歩き出すための最大のエネルギー源になります。
お母さんが「原因探し」を手放し、フッと肩の力を抜いて笑えるようになったとき。 不思議なことに、子どもは自らエネルギーを蓄え、誰に言われるでもなく、自分の足で新しい一歩を踏み出し始めます。
学校に行かない時間は、決して無駄な空白ではありません。 お子さんが自分自身を守り、親子の絆をより深く結び直すための、かけがえのない「サナギの期間」なのです。
もし今、暗闇の中で一人でご自分を責めているのなら、その重たい荷物を少しだけ降ろしてみませんか。 あなたとお子さんにとっての「本当の幸せ」の形を、一緒に探すお手伝いをさせてください。
